第2回
前回、ケーブルやエフェクターによって本来のギター・サウンドが失われてしまうメカニズムについて解説したが、今回はVITALIZERの開発者であるFree The Toneの林 幸宏氏に、その開発に至るまでにミュージシャン達からどんな声が寄せられたのか、その経緯やVITALIZERのコンセプト、従来の一般的なバッファー回路との違いについて、更に詳しく訊いてみた。
第3章:開発のきっかけ

林 氏「そもそもの開発のきっかけは、ギタリストの角田順さんが長渕剛さんのバンドでプレイされていた時に、ステージが非常に広くて、当然ケーブルが長くなるので、音の抜けも悪くなって求めているサウンドがどうしても出なくなるし、会場によってケーブルの長さが変わることによって音も変わってしまうという問題に対して“どうにかならないか?”という要望だったんです。複数のエフェクターを繋いだ後のケーブルの長さによって、そういう問題が起こっていたわけなんですが、実際に一般的なコンパクト・エフェクターの出力インピーダンスって、例えば数Kから10KΩほどあったりと、意外に高いんですよ。特にエフェクターの入・出力部をトランジスタで回路を組んでいる場合、出力インピーダンスはそんなに下がらないんです。だから、ケーブルが長くても信号をしっかりドライブすることができる回路を組んであげないと、ケーブルが長くなっていく時に、どうしても信号が劣化していくわけですね」


●開発者のFree The Tone 林幸宏氏

 
 長いケーブルを使用することによる音質劣化を防ぐためにはギターの高いインピーダンスの信号をバッファー・アンプ的な回路によってロー・インピーダンスに変換する必要がある。だが、そのバッファーの音質に対してもミュージシャンからの不満の声は多かったようだ。

林 氏「従来のエフェクターなどに内蔵されているバッファー回路は汎用的なもので、楽器用として最適なものかというのは、また別問題なんですよ。“バッファーの音質は硬いイメージで好きではない”という方は非常に多かったんです。通常のバッファー回路はハイ・インピーダンスで受けてロー・インピーダンスで出すんですが、基本的には出力側のインピーダンスがどういう状態でも同じ動作をしなければいけないんですよ。ただ、そうすると出力されるサウンドがバッファーの動作にかなり左右されてしまい、そのバッファーの色になってしまって音がペタッとした平坦な感じになってしまうということがあるんです。楽器自体の個々のサウンドを活かせない可能性があるんですね。それならば、従来のバッファーの回路ではなくて、楽器として最適なものを作ればいいなということになったわけです。VITALIZERは、ギターの出力インピーダンスによって特性が変わるというのが従来のバッファーとの違いなんです。なので、ピックアップがどういうものかといったギターの個々の特性に対して色付けすることなく、劣化に強い信号として出力できるというのがVITAIZERの特徴なんです。開発のモチーフというかリファレンスにしたのは、真空管ギター・アンプの入力部の動作なんですよ。信号源の持っている良さをそのまま伝えるところに狙いがあるんです」



第4章:バッファーとVITALIZERの違い

 ケーブル等によりサウンドの劣化が生じるなら、単純にアンプ側で補正すればいいと考える人もいるかもしれない。だが、この方法にも問題はある。

林 氏「結局、途中で失われてしまったものは、後ではどうすることもできないということなんです。例えばハイが落ちたからアンプのEQで補正するとしても、EQのポイントとは違うところが消えていることもあるので、そこを補正したくてもそれ以外の不要なところまで持ち上がってしまい、ノイズを増幅してしまうことがあるんです。高域全体を持ち上げるので、不自然な硬い音になってしまう。エンハンサーで補正するとしても、位相が変わってしまうので、パッと聴きは良い音になるかもしれないんですけども、長く使っていくと疲れる音であったり、自然な音ではなかったりとか、アンサンブルの中で埋もれてしまう音であったりということもあるんです。後で補正するというのはなかなか難しいと思うんですよね。だから、本来出ているギターのサウンドがアンプまで伝わっていれば、アンプの方での調整もしやすいはずなんです。アンプを設計する場合には、殆どの場合ギターから直接信号を入力して、ダイレクトで音作りをしていると思うんですよ。だから、本来は、それが一番理想的な形だと思うんです。しかし、実際にはエフェクターを使用することが多いわけで、その中で本来の音がどんどん失われてしまうところを、いかにアンプまで良い音を伝えるかということがVITALIZERの開発意図なんです」

 それでは、通常のバッファーとVITALIZERのサウンドの違いは具体的にどういったところにあるのだろうか?

林 氏「倍音成分が損なわれず、ふくよかに聞こえて、特に巻き弦の鳴りが違って聞こえるんです。楽器の信号に回路が忠実に反応することで音が立体的になるようなイメージですね。ギタリストの方はバッファーをギターの信号経路に入れたがらない人が多いですが、VITALIZERは逆に入れた方がトータル的に音が良くなるとおっしゃる方が多いですね。実際は、本来あるべきギターのサウンドなんですけど、色んな要素で損なわれてしまっていたものが、VITALIZERによって忠実に伝達されたということなんです」

 

●Providence PFX-5 VITALIZER

 VITALIZERの特性や効果、ギターのサウンド・システムの中での必要性は理解していただけただろうか。次回はVITALIZERの開発までに林氏がその経歴の中で培わってきた技術的なノウハウやプロの現場との密接な関係、そして世界中のプロ・アーティストから厚い信頼を得るピート・コーニッシュとの交流から学んだサウンド・システムに対する哲学を語ってもらうことで、VITALIZERが生まれるまでの背景や、そこに込められたギター・サウンドに対する徹底したこだわりを探っていこう。更には現在、単体モデルであるPFX-5という形以外に、Free The Tone CustomのSONIC DRIVE 2に回路の一部として組み込まれるなど、様々な形で応用が広がるVITALIZERの可能性についても訊いてみたい。

(川上啓之)

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