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第1回

 この連載コラムでは、プロビデンスのケーブルの歴史やポリシー、現在の製品ラインナップの紹介などを通じて、楽器用ケーブルに求められる性能とはなにか?、そしてプロビデンスが、どのようにして優れたケーブルを具現化しようとしているかということを様々な側面から検証しようというものである。その第一回目として、(株)パシフィクス代表である奥野 猛氏のインタビューをお届けしよう。プロビデンスのブランド設立に至るまでの経緯や“開発の終了は永遠に無い”と語る製品に込められた理念が反映されたプロビデンスの製品に対する認識を深める手助けになれば幸いだ。

1:奥野氏のバックボーン

まずは奥野氏の音楽にまつわる背景から、楽器業界に携わることになるまでのエピソードを訊いた。

奥野氏:「元々ビートルズが好きで、ポール・マッカートニーに憧れてベースを始め、バンドをやるようになったのが中学の頃からですね。本格的に洋楽を聴きだしたのが'71、2年くらいからで、当時はニュー・ロックって呼ばれていたハード・ロックやプログレを聴いていた世代ですね。でも、大学で入ったサークルが早大G.E.C. というサークルで、なぜかR&Bのサークルでした(笑)、たまたま同期に爆風スランプのドラムのファンキー(ファンキー末吉氏)がいたりしたんです。そこでバンドをやるようになって、ライヴハウスに出たりしてたんですけど、やっぱり実力的な部分で現実を肌で感じるようになり当時はフリーターって考えもない時代だったので、たまたま冗談で受けていた会社のうちのどこかに就職しようと思ったんです。そうして当時Gibsonの輸入代理店だった荒井貿易に入社することになり、営業部の東京支店で働くことになったんです。当時、本社に企画室という広告宣伝やアーティスト・リレーションをやる部署があったんですが、会社が名古屋だから、営業部ながらアーティストのフォローなどのお手伝いをしてたんです。その頃はアースシェイカーや聖飢魔II、筋肉少女帯、爆風スランプや米米クラブや大谷レイヴンさんとお付き合いしたりしてましたね。そうしてるうちにオリジナル・ギターの企画なんかに関わり出したりしたんですよ。その頃、ショップ・オリジナルのアクセサリーの企画開発もやっていて、そのひとつにケーブルもあったんです。その頃はケーブルに対しては、正直、深く意識はしてなかったんですけど、今思えばそれがケーブルに関わることになった契機ですね」。

 「そして、ご縁があって日本エレクトロ・ハーモニックス(ロックトロンなどの輸入代理店)に転職し、当時、初めてブラッドショウのシステムが日本に入ってきて、いわゆるオーディオ・ルーティング、スイッチングのシステムに関わることになったんです。その頃に林(Free The Tone代表)とも出会ったんです。そこで感じたのは、特に複雑なシステムの中でケーブルの質によってサウンドの違いやノイズに対する特性の優劣が出てくるということだったんです。実はそこがケーブルの開発に携わることになった、もうひとつのきっかけだったんです。そこでケーブルの質が音に大きく影響するということを実感したんですね。
 その後、私はフックアップ(Vital Audioなどの発売元)に移って、そこでケーブルの開発をやることになったんです。当時、高級ケーブルが市場に出回り始めた頃だったんですけど、良いケーブルは、どういう点が優れているかはあまり語られてはいなかったんですね。その頃、私たちはLC-OFCを使った高品質なケーブルを作っていたんですが“良いケーブルは音が違う”ということをショップやユーザーに説明するところから始めるような状況だったんです。その頃はお店の方ですらギター用ケーブルとスピーカー・ケーブルの違いも認識していないような時代だったので、理解のないお店に地道に説明するところから入ったんですよね。大多数のミュージシャンも、正直言ってケーブルに対する深い意識はそれほど持っていなかったと思います。ケーブルを比較して“音が違うでしょ?”というところから一歩一歩広めていったのは、僕や当時の仲間が第一号だったと自負できるんじゃないかな。プロの現場でも楽器屋さんの店頭でも“ケーブルで音が変わるんだ”ということを説いていったんです。そうやってプロの世界でもジワジワとケーブルの重要性が認識されるようになったんです。そして、今や日本が世界で一番のケーブルにこだわる国になったんです。こんなに品質が高く種類の多い国は他にはないです」。

2:プロビデンスの歴史

 そして奥野氏はケーブルに対する取り組みを更にもう一歩進めるため、フックアップを離れて独立し、会社を設立することとなった。

奥野氏:「それまでの仕事の中で、やっぱりケーブルは僕のライフワークだと思ったので、やりたいことをしっかりやろうと考えたんです。当初はブランド名はプロビデンスではなく、ライヴワイヤーという名前で販売し始めたんですが、おかげさまでそれなりに広まり始めました。だけど、ブランドとして確立するために商標を取得しようとしたら、残念ながらいくつかの理由で“ライヴ”という名前では取得できないんですよ。ライヴワイヤーという名前もある程度浸透していたんですが、そこで決断して、立ち上げて2、3年後にプロビデンスという名前に変わったんです」

 ライヴワイヤーのブランドでケーブルを販売し始めた当初から、現在のプロビデンスのケーブルの特色である、サウンドの指向性によって異なる複数のモデルを用意するというコンセプトを提示していたが、これは日本では先駆け的存在となった。


奥野氏:「その当時、半年間かけて試作品を作ったり悩んだりしてケーブルを完成させたんですが、それまでケーブルに携わってきて感じたのは、“良いケーブルとは?”ということに関して、何が良いのかうまく説明できていなかったということだったんですよ。“音が良い”というけれども、具体的な根拠に対しての説明がなかったんですよ。“良い/悪い”は聴く人の耳の感覚でもあるわけですから、絶対というものはないわけですよね。ですから、最初はロックやジャズという風に音楽のジャンルごとに向けた製品というのも考えたこともあるんです。でも、もっと解りやすい音の傾向の分類に分けた方が良いんじゃないかと考えたんです。それでたくさんの試作品を比べてみたり、仲のいいミュージシャンの方に意見を訊いたりして“このケーブルはこういう音の方向である”ということを検証し、収斂していって最初に3つのモデルを発売したんです。それが“SHARK”“FATMAN”“BOTTOM FREQ'ER”です。例えば、ナチュラルだけどミッド・ローのギターとしてはおいしいところが出るから名前が“FATMAN”と、そういう感じで決めたんです。“どういう目的にどのケーブルが最適なのか?”ということを提案してみようということで始めたわけですね。ケーブルの目的はギターのサウンドを何も変えずにそのまま表現できればいいなと思ってるんですけど、残念ながら電気的な抵抗となる導体を通る限りは、絶対に音が変わってしまうわけですよ。だから、できるだけ変わらないことは当然として、変わるならば求めている方向性に気持ちよく変わるべきだろうということも前提としてあったんです。それで色々と試行錯誤を繰り返してモデルも増えていく中で、どういう指向のモデルを作りたいとか、あるいは試作品が完成して“こういう方向性にマッチしてるな”とか、そういうことでラインナップが増えていったんです」


次回は製品を開発するにあたって、プロの現場や様々な人からの影響について引き続き奥野氏のインタビューをお送りします。乞うご期待。






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