その後、日本ビクターを退職して現在のパシフィクスに参加する。パシフィクスで取扱っているピート・コーニッシュの製品サポートのため、また技術指導を受ける目的で、林氏はピートの元に旅立った。ピート側でも林氏が持つMIDIやデジタル技術に関するノウハウを必要としていたところもあり、2ヶ月間にわたってイギリスでのミュージシャンの現場やピートの工房で作業を共にした。

●ピートコーニッシュ氏
林 氏「ピートのことは20才頃から知ってましたし、いつか会いたいなと思ってました。実際に会って話を聞くと、発想のスタート地点が違うんですよね。非常にビックリした話があって、ピートがポール・マッカートニーのワールド・ツアー用の自動制御の電源を設計/製作したのですが、それが本番中に舞台から落下するというアクシデントがあったそうなんです。でも、本体は壊れたにもかかわらず、電源は補助用に自動的に切り替わって供給を続け、音が出なくなることもなく、ちゃんとステージは進行したということがあったそうなんです。驚きですよね。ピートの作るルーティング・システムや、私が作るミュージシャン向けのカスタムのルーティング・システムは、必ず壊れた時のことを想定してるんです。どこが壊れた時にどうなるかということを考えながら作るので、あるパーツが壊れてトラブルがあった時も音が出続けるようにしてあったり、そういう工夫が色んなところに盛り込まれているんですよ。」
ピート・コーニッシュのサウンド・システムに対する哲学は、帰国後、パシフィクスのグループ会社として立ち上げた、カスタムショップFree The Toneでのミュージシャンのためのカスタム品やProvidenceブランドでのエフェクターや信号周りの機器のデザインに大いに活かされているようだ。ところで、ピート・コーニッシュはエフェクター等のトゥルー・バイパス・スイッチに対して、どちらかというと否定的な立場であることをご存じの方もいるだろう。このスタンスが、林氏がVITALIZERを開発する経緯にも関連しているのだ。
林 氏「ピートの場合は、様々な機器を組み合わせた時の問題を解決してきた立場からの考えですので、どんな機器が接続されるのかが決まっていない状況の場合、どのような回路であれば問題が発生しにくくすることができるかということを想定して設計しているんです。そうすると、ピートの場合は必ず各機器間に電気回路が入っていて、オフ時にも必ず電気回路を通して次の機器に信号を送るという方法を採っているんです。」