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COLUMN

第3回
VITALIZER開発ストーリーの三回目として、引き続きFree The Toneの林 幸宏氏のインタビューをお届けしよう。今回は林氏のキャリアを辿ることで、VITALIZERの開発に至るまでにギターのサウンド・システムに対する哲学が、どのように積み重ねられ形作られてきたかを探っていきたい。技術者としてだけでなく、ミュージシャンの現場の最前線に深く関わり、世界的なサウンド・イクイップメントの権威であるピート・コーニッシュと深い信頼関係を持つ林氏の体験がVITALIZERのに活かされていることが判るだろう。
第5章:林氏の経歴

 まずは林氏の音楽や楽器関連機器に対する原点から順を追って現在に至る経緯を訊いた。

林 氏「学生の頃からバンドを組んでギターを弾いていたのですが、その時期は雑誌の記事を見てエフェクターを作ったりしていましたね。大学では機械工学科を専攻していましたが、真空管のアンプに興味を持ち始めて、自分でバラして改造していました。その頃、楽器関連の輸入代理店でアルバイトとしてギター用のサウンド・システムの組み込みやメンテナンスの補助をやっていたんです。そこでいろいろな現場に連れて行ってもらいました。ラウドネスの高崎晃さんや聖飢魔IIさんや、色んな方にお会いしました。卒業後は業務用の映像やプロ・オーディオ機器、楽器用のエフェクターやアンプを作っていたメーカーに入ったんです。そこに入って一年くらいしてから、アルバイト時代の知人から“HIDEさん(X JAPAN)のレコーディングやツアーでのサウンド・システムのテクニシャンをやらないか?"という話が来たんです。それがきっかけで勤め先の長野から東京に通いながら、ギターテックの仕事をやるようになったんです。」

 HIDE氏(X JAPAN)のギターテック時代は機材のケアやサウンド・システムの構築だけでなく、HIDE氏のためにリング・モジュレーターを製作したり、PATA氏のためにライン・セレクターを製作したりということもあったそうだ。

 
「どちらかというとレコーディングでの音作りのために就いていたという方が大きいですね。hideさんの1stソロ・アルバムのレコーディングでは、かなり色々やりましたね」

 プロの現場での仕事を続ける中、在籍していた会社が楽器関連の業務を縮小することになったこともあって林氏はそこを退職し、機材テックの仕事の発注元だった音響機器の輸入代理店に転職した。そこではギター関連の機器に関する技術的な仕事だけでなく、ミュージシャンの現場でのテクニカルなサポートや、ミュージシャンのためにカスタム品を作ったりということまでこなしていた。その後、日本ビクターのプロ・オーディオ部門に転職し、業務用音響機器の設計に携わる。

林 氏「そこではアナログ/デジタル・ミキサーやデジタル・アンプの開発をやっていました。プロ・オーディオの分野では、信頼性が非常に重要なんです。いかに壊れにくい設計をするか、どのようなテストをすれば実際の現場でトラブルが発生しにくい製品ができるか、非常に高度なノウハウがあるんです。約5年半勤めましたが、そこでずっと設計に携われたことは、非常に大きかったですね。」



第6章:ピートコーニッシュの存在

 その後、日本ビクターを退職して現在のパシフィクスに参加する。パシフィクスで取扱っているピート・コーニッシュの製品サポートのため、また技術指導を受ける目的で、林氏はピートの元に旅立った。ピート側でも林氏が持つMIDIやデジタル技術に関するノウハウを必要としていたところもあり、2ヶ月間にわたってイギリスでのミュージシャンの現場やピートの工房で作業を共にした。


●ピートコーニッシュ氏

林 氏「ピートのことは20才頃から知ってましたし、いつか会いたいなと思ってました。実際に会って話を聞くと、発想のスタート地点が違うんですよね。非常にビックリした話があって、ピートがポール・マッカートニーのワールド・ツアー用の自動制御の電源を設計/製作したのですが、それが本番中に舞台から落下するというアクシデントがあったそうなんです。でも、本体は壊れたにもかかわらず、電源は補助用に自動的に切り替わって供給を続け、音が出なくなることもなく、ちゃんとステージは進行したということがあったそうなんです。驚きですよね。ピートの作るルーティング・システムや、私が作るミュージシャン向けのカスタムのルーティング・システムは、必ず壊れた時のことを想定してるんです。どこが壊れた時にどうなるかということを考えながら作るので、あるパーツが壊れてトラブルがあった時も音が出続けるようにしてあったり、そういう工夫が色んなところに盛り込まれているんですよ。」

 ピート・コーニッシュのサウンド・システムに対する哲学は、帰国後、パシフィクスのグループ会社として立ち上げた、カスタムショップFree The Toneでのミュージシャンのためのカスタム品やProvidenceブランドでのエフェクターや信号周りの機器のデザインに大いに活かされているようだ。ところで、ピート・コーニッシュはエフェクター等のトゥルー・バイパス・スイッチに対して、どちらかというと否定的な立場であることをご存じの方もいるだろう。このスタンスが、林氏がVITALIZERを開発する経緯にも関連しているのだ。

林 氏「ピートの場合は、様々な機器を組み合わせた時の問題を解決してきた立場からの考えですので、どんな機器が接続されるのかが決まっていない状況の場合、どのような回路であれば問題が発生しにくくすることができるかということを想定して設計しているんです。そうすると、ピートの場合は必ず各機器間に電気回路が入っていて、オフ時にも必ず電気回路を通して次の機器に信号を送るという方法を採っているんです。」

 
林 氏「ピートは自分のデザインした回路を、他社に対して一切提供はしていません。ですから、VITALIZERはピートのデザインした回路を元に設計したわけではないんです。でも、基本的な考え方は共通していると思いますよ。」


●ピートの工房で作業中の林氏


●ポールマッカートニーのラックシステム

 前回の開発コンセプトについての話と、今回の林氏が体験してきたプロの現場での信頼性の問題にまつわるエピソードから、なぜVITALIZERが求められていのかという背景と、その要求に答える林氏の姿勢が、いかにして培われてきたかが理解していただけただろう。
 VITALIZERは現在、汎用性を考えてギタリスト/ベーシストがシステムに組み込み込んで使いやすいコンパクト・エフェクター・タイプのPFX-5という形で製品化されている。では、実際にはどのようなセッティングで威力を発揮するのか?次回はその具体例を紹介すると共に、様々な形で応用が考えられるVITALIZERの可能性を探っていきたい。

(川上啓之)



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